転職市場におけるレアキャラ「社内SE」
社内SEとは企業内のIT部門やシステム部門で働くエンジニアのことで、所属する会社自体はシステム以外を生業としている企業となります。例えばメーカーや流通業、飲食業界や銀行などを本業としている会社のシステム部門で働くSEを社内SEと呼んでいます。実はこの社内SEですが、転職市場にめったにお目にかかることが出来ないかなりのレアキャラなのです。
なぜならば、社内SEは間接部門扱いだからです。コスト部門と認識されます。システムベンダーならばSEは直接売り上げに貢献するので、SEは多ければ多いほど売上も利益も伸ばせますが、社内SEはコスト扱いなので、少なければ少ないほど経営陣に喜ばれます。少ない方が経営陣に喜ばれるという事は、必然的に社内SEの人数も総じて少ないという事になります。
企業によって多少のばらつきはありますが、社内SEの割合は総社員数の1%程度なので、1000人規模の比較的大きめな企業でも、社内SEは10人程度しか存在しません。300人程度の会社ならば、3人の社内SE、、、とはならず、総務部や経理部の人員でPCに詳しい人が兼任する会社も多くみられます。そういった事情から、そもそも社内SEは絶対数が少ないのです。
社内SEがコスト部門である以上、社内SEを常時抱えることが出来る企業は、体力のある大手企業に集中します。わざわざ大手企業を退職する人は少ないことが、より一層転職市場に社内SEが出回らない要因となっているのです。
IT業界ヒエラルキー頂点に君臨
社内SEは、種類の多いSEの中で唯一大元の発注側にいます。二次請け、三次請けと下に発注をするケースはありますが、大元の発注側にいるのはユーザー企業の社内SEのみです。もちろん発注元なので、ピラミッドの頂点に君臨します。元請けだろうが、一次請けだろうが関係ありません。発注元の発言力は絶大です。お客さんなので当然ですね。お客さんのシステム担当が社内SEとなります。
ぼくが1番最初に勤めた会社は超弱小企業で、二次請けか三次請けかもわからないくらい底辺でしたので、直接発注元のSEとお会いする機会すらありませんでした。一次請けのSEですら神様のような存在でしたから、それはそれは天上人だと思ってました。見たこともない存在に憧れて、いつか自分も社内SEになりたいと決意したものです。そして、その強い思いは叶い、10年以上の間、一部上場メーカーの社内SEを勤めることが出来ました。
いざ社内SEになってみると実感出来ますが、やはりかなり居心地は良いです。ベンダーとの打ち合わせは、相手が大手企業であろうと常にこちらが上手になりますので気は楽です。もちろん人間として横柄な態度はご法度ですが、勘違いする社内SEがいるのも事実です。「お前が偉いんじゃなくて、お前の会社が偉いんだよ。」と後ろ指をさされるのは嫌だったので、ぼくは気をつけたつもりですが、まぁそんな世界です。
社内では最底辺で発言権なんて無い
ベンダーとのやり取りでは、客側の立場なので居心地は良いですが、一方社内の中での立ち位置は酷いもので、新入社員のちょい上辺りです。本当に扱いは酷いもので発言権なんてものはありません。なぜならば、社内SEはコスト部門だからです。
メーカーの場合、発言権のある部門は、社長管轄の経営部門を除けば、製造部門か、営業部門で覇権争いをやってます。どちらも売り上げに直結している部門で、製造部門の方は「メーカーである以上、俺たちが物を作らないと売れないのだから製造部門の方が偉い」と思っているし、一方営業部門の方は、「物が売れない時代に物を売って利益を捻出してるのだから営業部門の方が偉い」と思っています。
そんな2TOPのご機嫌を損なわないように、双方の間に入って調整をする能力が社内SEには求められます。ITスキル以外に、製造部門の業務知識や、営業部門の業務知識、また経営方針も把握しておく必要があるし、立場が弱いなりにも、時には正論を武器に戦うだけの度量と政治力が求められます。ベンダーを相手にしている時は殿様気分を満喫できますが、社内に目をやると居心地が悪いのが社内SEという職業なのです。
最初に思い描いていた社内SE像は簡単に崩れ落ち、入社ほどなくして、社内SE=殿様 というイメージが虚像であったことが分かりました。。。しかし世の中うまくできてるもんだなぁと思ったものです
激白!社内SEの実態
さて、ベンダー側のSEからしてみると謎の多い社内SEですが、その実態をぼくの経験の中からお伝えしていきたいと思います。
業務内容
SEと言うと、システムの設計やプログラミングをバリバリやっているイメージがありますが、まずプログラミングをする機会はあまりありません。基本的に協力会社か下請けにアウトソーシングされます。場合によっては海外にオフショアもあるでしょう。会社によっては、若手社員の育成を目的としたプログラム開発をさせる会社もありますが、あくまでも教育を目的とした一時的なもので、プログラミングは本来のお仕事ではありません。
エンドユーザー部門(業務部門)の要望をヒアリングして、要件を定義し、システム設計をするまでのいわゆる上流工程を行うのが社内SEのお仕事です。こう聞くとかっこいいですね。この仕事ばかりだとどんなに楽しい事か、と思ったものです。現実的には、これらのお仕事は全体の2割か3割程度です。7割から8割はヘルプデスクと言う名の雑用です。いわゆる何でも屋が稼業となります。
パソコンが起動しなくなったとか、エクセルやワードの使い方が分からないだとか、そんな問い合わせばかりです。ひどい時には、「データがおかしい。システムのバグだ」と怒鳴り込んでくるもんだからあわてて調査をしていたら、結局データの入力ミスだったりとか、本当にそんな問い合わせの日々です。
また一方で、経営陣にはIT戦略の策定やIT化計画という、かっこいいお仕事もする必要があります。名前はかっこいいいのですが、平たく言えばIT化の予算取りの事で、半期ごとにIT化の実施計画をつくり、経営陣に費用やら効果やらをプレゼンし、実施の為の予算を勝ち取るお仕事をしなくてはいけません。社内SEにとっては経営陣がお客さんみたいなものですね。
ベンダー企業のコンペと違い、無理な金額での受注はしなくても、基本的には仕事は回ってくるのでぬるいと言えばぬるい世界なのですが、逆に言うと、身内だからこそ無理難題も言われやすいです。
ぼくも若いうちは、問い合わせ対応ばかりのコールセンターのような働き方でしたが、歳を重ねるにつれポジションが上がってくると、コールセンター地獄から解放される代わりに、経営陣のプレシャー地獄を味わうようになりました。もちろん、製造部門や営業部門からの圧力もあり、ポジションがあがると、同等のポジションの方から圧力がかかります。社内では居場所がないくらい肩身の狭い思いをするのが社内SEの実態です。
ベンダコントロールが生命線
社内SEにとって唯一居心地の良い場所、それはベンダー企業とのやり取りなのですが、実はそう都合が良い事ばかりでもないのです。うまく行っている時は良いのですが、うまく行かなくなった時は悲惨です。結論からいうと、最終責任は発注元になります。究極まで責任の所在を追えば、発注元の経営陣にたどりつきますが、ほとんどのケースでは、システム担当者が叱責されます。場合によってはマイナス査定です。ベンダーも多少のわがままは大目に見てくれますが、ガチンコになれば向こうも本気で来ます。本当に裁判沙汰もあります。(スルガ銀行vs日本IBM事件など)
ぼくも裁判になったケースは1度もありませんが、ギリギリのやり取りは2度程ありました。瑕疵担保責任で揉めたのですが、おかげさまでそのあたりの法律にはだいぶ詳しくなりました。だいぶ詳しくはなったのですが、先方はいよいよ法務部から弁護士を投入してくることを匂わせてきた事から、このままでは双方得をしないと判断。結局痛み分けとなった経験をしたのですが、結論から言うともちろん失敗プロジェクトになりました。マイナス査定こそ回避出来ましたが、経営陣には怒られるし、事後処理は大変です。
10数年前の話なので、いまなら冷静に振り返る事が出来ます。もちろん、どちらかが悪いといった事は無くて、双方同じように悪かったのだと思います。同じように悪かったのですが、最終責任はやはり発注元が背負います。当時のぼくにベンダーをコントロール出来るだけの技量がなかったと言わざるをえません。そう思うと、ベンダー相手に殿様気分で接する訳にはいかないものなのです。なめられないように振る舞わなければいけないし、厳しくしすぎてもコストに跳ね返ってくるので、いい事にはなりません。社内SEにはベンダーをコントロールするバランス力が求められるのです。
残業は少なめ
社内SEはベンダーのSEと比較すると、かなり残業が少なめです。もちろん人による部分もありますが、月間10~20時間前後な企業が多いです。ベンダーのSEは月間50時間や80時間など36協定ギリギリアウトあたりが多いのが実態だと思います。そういう意味では、社内SEはワークライフバランスがとりやすい職種だと言えます。
上述の通り、ヘルプデスクが主な仕事なので、業務部門が定時で上がればSEも帰れるわけです。またシステム開発があったとしても、社内の業務部門に納品するだけなので、納期必達の意識は双方緩めです。法律により規定が変わったり、新たな工場立ち上げに伴いシステム稼働が必達である場合を除き、納期は緩めです。ベンダーSEからは信じられないかもしれませんが、「納期1ヵ月遅れそう。ごめん」が通用します。そんな世界ですので、残業が少なめなのだと思います。
給料も少なめ
残念ながら給料は低めです。元請け企業のSEの方が給料が多いのが実態です。立場的には発注元の社内SEの方が上ですが、元請のSEの方が給料が多いというあべこべな現実があります。社内SEは就職難易度が高い割には給料が低いというのが現実なのです。先ほども伝えた通り、社内SEはコスト部門なので、頑張っても社内での評価が上がりにくいのです。部内では目立っても、社内では目立てないのが社内SEの悲しい現実です。高年収を求めるならば、社内SEよりも、実力を正当に評価してくれる大手ベンダーSEに就職した方が近道です。
社内行事や打ち合わせが多い
残念ながら社内SEは、技術に没頭することは許されません。数多くの社内イベントに参加する必要があります。企業によってイベントの中身は様々ですが、残念ながら避けては通れないのです。例えば、QCサークル活動だとか改善提案コンテストなど、ITスキルとは程遠い社内イベントが開催されると、IT部門も参加しなければならないし、逆に模範である事が求められたりもします。こういう活動が好きな人にとっては、社内SEは向いていると思いますが、技術のみを追求する職人タイプの人には、社内SEは向いていないと思います。ぼくは、そういったイベントが好きな方で、割と積極的に参加するタイプでしたが、それでも多すぎてうんざりする時期もありました。
転職に有利
社内SEは転職に有利です。これは間違いありません。その理由は、システムエンジニアでありながら、業務部門や経営陣の考え方を持っているからだと思います。技術のみを追求するSEは数多くいますが、業務部門の考えや、経営陣の考える事までを考慮できるSEは社内SEが一番です。そしてそのスキルは転職市場で人気があります。もともと社内SEは大手企業にしかいないし、割と居心地の良い職種なので、転職を希望する人が少なく、転職市場にも出回っていないのは冒頭にお伝えしたとおりです。となると、出回った時はすぐにオファーがかかるのも頷けます。実際、ぼくもたくさんのオファーがきましたが、その理由は「製造業に特化した知識」を持ち合わせていることと、「経営陣への報告・提言活動」が出来る点が理由でした。この両方が出来るSEはレアだと思います。希少であれば希少であるほど市場での価値が高まるのは自然の原理なので、転職で有利に働くし、年収も上げやすくなります。
まとめ
・転職市場でも数少ないレア職種
・IT業界の頂点に君臨しているが、社内では底辺扱い
・調整業務が多く、IT技術スキル向上に集中できない
・ベンダーコントロール経験が積める
・社内SE経験は転職に有利
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