「何もせずに問題解決出来るSEが最高のSEや」
ぼくが若い頃、大嫌いだった上司の名台詞です。顔を見るのも鬱陶しいほど嫌いな上司でしたが、このセリフだけは、ぼくの胸に突き刺さりました。
そもそも仕事とは、改善や問題解決の連続です。ITエンジニアも例外ではありません。ユーザーがシステムを導入するのも、業務の効率化という狙いがあります。ユーザーの業務時間が長引き残業代などの人件費がかさむ問題を、システム導入による業務の効率化をすることで、問題解決をさせるわけです。
システム投資の方程式
人件費がかさむ問題を解決すべきは経営陣の責任です。その問題をITで解決しようと思ったら、システム導入費用を捻出する必要があります。この時経営陣には、投資という考え方が生まれます。投資したお金がどのくらいの期間で回収できるのかを判断し、システム導入にGOサインを出すのか否かを判断します。その判断を下すためには、数値化してやる必要があります。
この時経営陣の頭の中では、以下の公式が使われています。
費用対効果 = 効果 / 費用
とてもシンプルな式ですね。「費用対効果」と書いてますが、「コストパフォーマンス(コスパ)」ともいいますね。どれも同じ意味です。
上の公式では、効果の数字が大きければ大きいほど、コスパが良くなります。反対に、費用の数字が小さければ小さいほど、こちらもコスパが良くなります。当たり前ですが、コスパの良いものは投資対象になります。システム導入に関しても同じことです。
上の式で出てきたキーワードの「効果」を「利益」に、「費用」を「投資」に。意味をそのままにして言葉だけを置き換えることで、この式をそのまま「投資収益率(ROI)」に活用出来ます。
投資収益率 = 利益 / 投資
投資の結果測定にも使われる指標ですが、投資した費用に対して、どのくらいの利益(効果)が得られるのかを表す指標で、この数字が高いほど、高い投資効果が期待出来ます。ようするに経営陣がGOサインを出しやすくなるのです。ちなみにこのフェーズは、我々ITエンジニアが普段から行う、要件定義や設計といった上流工程よりもさらに上流にあたる「源流」のお話です。システム化案件のお仕事が降りてくる前の段階では、必ず上記のような判断が、経営陣の間でなされているのです。
ITエンジニアが作り上げる改善後経費の世界
せっかくなのでもう少し深堀しましょう。利益を算出するには以下の式になります。
利益 = 改善前経費 ー 改善後経費
期待できる利益を表す指標です。投資判断材料に利用するとなると、改善後の値は予測値となるので、精度の高さは求められますが、改善前である現状の経費が大きく、改善後には低コストで業務を回せるのであれば、高い利益が期待出来るわけです。ほんとうはもう少し複雑な式ですが、かいつまんでお伝えすれば、このようなシンプルな式になります。
我々ITエンジニアはシステムを作るのがお仕事なので、「改善後経費」の世界を作り上げることになります。いきあたりばったりの設計をしてしまい、保守コストばかり発生するシステムを作ってしまったのでは、「改善後経費」の値が増え、「投資収益率(ROI)」の値を下げてしまいます。「投資収益率(ROI)」に貢献するためにも、保守コストの発生しにくいシステム設計は重要だといえます。
最高パフォーマンスのカラクリ
さて冒頭の話に戻りますが、「何もせずに問題解決出来るSEが最高のSEや」の言葉の意味が、「投資収益率(ROI)」という考え方を知ると理解出来ます。何もしないとは費用ゼロを指し、問題解決とは利益を生み出していることになります。これを上の式に当てはめると、理論上の投資収益率は無限大となります。確かに最高の投資であり、これを提案出来るSEは、経営陣に重宝されます。
何もしないというのはさすがに誇張表現ですが、わざわざコストのかかる最新IT技術を駆使したバリバリのシステムを構築しなくても、エクセル関数で十分な業務なんてたくさんあります。また、業務整理してみると形骸化している不要業務だったってことさえあります。何もせずに問題解決出来ることは身近に潜んでいるものですが、見つけ出すには高いレイヤーの視点と相応のスキルと経験が求められます。いずれにせよ、凄いSEの為せる技であることには変わりありません。
嫌いな上司でしたが、言っていることは正しいです。嫌いな上司の言葉だというのがとても悔しいのですが、この言葉はぼくのITエンジニア人生を有意義なものに変えてくれました。ただ彼の場合は残念ながら、「何もせずに問題も解決しないSE」でした…。これでは投資収益率はゼロです。ぼくが彼を好きになれなかった理由は、こういうところだったのだと思います。
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